鏡の中の


再生創造、反射的投影をやめることにあります。
自我は錯覚ですから、記憶の引用から発生する超一瞬の行為者の投影像が、「連続」しているのが問題です。


「個人」という投影像によって「他人」が生まれ
人数分マイナス1のマインドの境界線が生まれます。


無駄な努力が自然に止むとき、最も自然なもの、自然そのものが残ります。


鏡があります。鏡の中に鏡があります。その鏡の中にあなたがあります。
何十枚も連なり一斉に動いています。


鏡が何も映さなくなったとき
投影された個人が「光」に戻っています。



レスターの物語


病院にて 2週目の最終日、シュルツ医師は毎朝の回診に来て、患者を調べた後、椅子に腰を下ろした。


「今日で退院して良いですよ。状態が安定していますから、これ以上あなたを入院させておく理由はありません。ただ、あなたの病気が良くなったという事ではないですよ。 これから定期的に検査をしながら、一生療養する必要があります。でも、これ以上入院している必要はありません。家で安静にして薬を飲む事が出来ますから」


医師は彼の自宅での休養プログラムを、薬、定期的に病院を訪れる事、食事法、社会活動(無し)、性生活(これも無し)にいたるまで、概要を説明し始めた。レスターは驚いたが、医師の要求に従う決心をした。


「先生、これはどれくらい続けるんでしょうか?」レスターは尋ねた。「どれ位の間、このように休まないといけないのでしょうか?はっきり分からないとは思いますが、大体どれ位か教えて頂けますか?」
彼は医師の顔を注意深く見ながら答えを待った。シュルツ医師が口を開くまで長い時間が経ったように思えた。


「君は今何歳かね?」


それは彼が予想もしていなかった言葉だった。次に何と言われるのかとレスターは考えた。それは彼が好ましく思えないような何かが、その医師の態度に表れていたからだった。


「42歳です」彼は答え、次の言葉を待った。


シュルツ医師は窓の外を眺め、無表情で座ったまま考え込んでいた。長い沈黙の後、2人とも動かずにいたが、シュルツ医師は1度うなづいた。それはレスターを恐れさせた決定的な瞬間だった。そして唐突に、きっぱりとこう言った。


「これからは、残念に思います」


「どういう意味ですか?これからって?」
とても不快な感覚がレスターのお腹から胃へ登ってきた。


「つまり、あなたは今後普通の生活をする事は期待出来ないという事です」彼はレスターのショックを受けた表情を見て、素早く言った。「あなたの冠状動脈は深刻な状態になっているのです。あなたがこうして生きているのは全くラッキーなんですよ。発作の度合によっては死んでいてもおかしくはなかったのです」医師は間を置き、咳払いをした。「こういう事を聞くのは非常に辛いというのは分かっていますよ。しかし、それは私も同じく辛いんです」
彼は唐突に立ち上がり、窓際まで歩いていき、レスターに背を向けたまま言った。「何か他に言える事があれば良かった。2,3ヶ月であなたは正常に戻り、前の生活に再び戻れると言えたら良かったと思います」彼は間を置き、顔を静かにレスターに向け、言葉を続けた。「しかし、それは言えません。正直言って、それは言えないのです。大変残念です」


レスターは今や怒っていた。「残念ですって?ええ、私も残念ですよ!あなたは私の命を救った。でもそれは何のためですか?残りの人生を病気で暮らすためですか?全く何て人生を取り戻してくれたのですか、一体!」


一度口火を切ったら、彼は止めることなど出来なかった。彼は医師を非難し続けた。彼の全ての欲求不満、憤り、怒りは、彼の腹の底から不快な感覚が喉に登って、咳が出てむせ始めるまで溢れました。医師は、彼がゲーゲー吐き、疲れきって枕に倒れるまで洗面器を持っていた。レスターの手は口をぬぐおうと持ち上がっている間、震えていたのだった。


医師も汚れた洗面器をトイレに運ぶ間、震えていた。彼は注意深く、それを床に置き、洗面台に屈みこみ、両手で体重を支え、額を壁にある薬箱の冷たい鏡に押し当てていた。何年も開業しているにも関わらず、こういう状況に彼は影響されていた。彼は家にいれば良かったと思い、1日が終わり、夕食の前に1杯か2杯飲みながらリラックスしていたらと願っていた。大きく溜息をついて、彼は姿勢を起こし、部屋に入っていった。


「今日、退院許可にサインをします。でも、あなたが望むならここにいていいんですよ」彼は穏やかに言いました。「もし準備をする時間が必要ならば、その旨を看護師に伝えておきますからね」
彼は他に何を言ったらよいか分からなかった。


レスターは答えた。「いいえ、大丈夫です。今日、午後にでも退院します。退院を延ばすのは全く意味がないと思いますから」


「分かりました。あなたが何を決めようと自由ですよ。でも考えが変わって、もう少しここにいたいと望んでもいいという事を覚えておいて下さいね」 医師は、レスターの青白い顔を綿密に検査している間、しばらく沈黙したまま立っていた。「家に帰ったら、のんびりリラックスするのを忘れないようにして下さいね。リラックスする事がどんなに重要かは何度言っても足りないくらいなんですよ。階段はどんなものでも昇らないようにして下さい。あと、靴紐のない靴を持っていますか?ローファーのような・・」


「ローファーですか?いいえ、でもどうしてですか?」


「一足どなたかに買っておいてもらうといいでしょう。靴紐を結ぼうと前屈みにならない方が良いですからね。前に屈んだ姿勢は心臓に負担がかかりますから」


レスターが馬鹿げた考えだと思ったが、彼の口をついて出た言葉は「OK、あなたが言う通りの事は何でもしますよ」というものだった。レスターはローファーを履くのを嫌っていたが、今やそれは問題ではなかった。それから、彼は医師がドアに向って歩いているのを見ていると質問が浮かんだ。「先生、私は死にませんよ。そうですよね?つまり私はたった今から気楽にいなければならない。しかし死ぬわけではない。そうですよね?」


シュルツ医師は立ち止まり、「私には分かりません」と答えた。それからレスターの方を向き「肯定的な答えを言えたらと思うけど、言う事は出来ない。分かっている事は、私は本当に分からないという事さ。君は深刻な心臓発作を起こした。そして生きられるのは1年か2年だろう。明日死んでしまうかも知れない。それは私には分からない」


「正直に答えてくれてありがとう、先生。またお会いしましょう」


レスター家に帰る


その日の午後、彼はまるで墓石にような彼のペントハウスに帰った。「これは墓だ」彼は思った。「そして私は死人だ。きっと慣れるしかないんだろうな」妹達が彼の面倒をみるために滞在したいと申し出てくれたが、彼は彼女達を帰した。彼はただ一人になりたかった。


彼はベッドに入り、食べる時と薬を飲む時、トイレに行く時以外は、3日間をほとんど眠って過ごした。それから、傷ついた動物が巣に戻るように、這ってベッドに入った。


何かが変わったのは4日目だった。昼食の後、彼は椅子に座りながら窓からセントラルパーク(ニューヨークの)を眺めていた。雪が降り、木々は輝いていた。公園はまるで妖精の国のように見えた。彼は何て美しいのだろうと思っていたが、その景色を全く楽しんでいない事に気づいた。彼は美しい事にさえ心が動かなくなっていたのだった。彼は事実上、回復の見込みがない病人であった。せいぜい、何年かこの自宅で座って、横になる分別もない虚弱で死人のような体を養生し、終わらせる事を楽しみにするくらいである。


それを思うと、彼は憤慨し、発作を起こして以来の大きなエネルギーの高まりで、椅子から立ち上がり、洗面所にある薬箱に向かい、錠剤を数えた。彼は新しい薬、鎮静剤と心臓の薬が十分ある事に気がついた。又、数年前に腎臓結石の痛み止めに処方されたモルヒネの錠剤もあった。もし彼がこの世を去る事を望むなら、そうさせてくれるだけの量のモルヒネがビンには残されていた。モルヒネは心地良く死なせてくれる。暖かく心地の良い雲に舞い上がり、全てがバラ色なのである。確かに次の心臓発作を待つよりは確実に良い死に方だった。


さあ、今、彼は選択肢を持った。病気になってから初めて彼は自分自身に起こった事をコントロールするものを得た感じがした。彼は何をするか考えた。モルヒネの錠剤を飲んで人生を終らせるか?いや、今ではない。彼は決断した。もっと悪い状態になった時にいつでも飲めるのだから・・。


彼は椅子に座り、この状況を吟味し始めた。声を出して自問した。「お前はまだ息をしている。病気の予後について、医者であろうが誰であろうが何を言ったとしても、お前はまだ息をしている。それこそが意義のある事だ。きっと何か希望があるだろう」


「さあて、どこから始めようか?」この質問は落ち込むような感覚を再び生じさせ、一気にモルヒネの錠剤を飲むべきかも知れないという思いを彼にさせた。少なくとも、それで彼はこの不幸から逃れ、戦いを終結させることが出来るのだから・・・。彼は生きている間、何と戦っていたのだろう?ほんのちょっとした幸せ、それが全てだった。彼はその幸せを見つける事が出来なかった。見つけたとしても、その幸せは1時間、あるいは数分しか続かないものであった。束の間・・・それが人生であった。束の間・・・永続しないもの・・・常に変化している・・・全てがうまく行っている、あらゆるものが決まりきってリラックス出来ると思うや否や、何かが起き、あなたは再び始めにいたところに戻ってしまうのだ。分かっているのに、持ってはいられないものを掴んで、握りしめようとしてしまう。一体人生とは何なんだろう?


一体どんな意味があるのか?この地球上で彼は何をしたのだろう? 彼は自分が生まれてきた理由が全く分からなかった。人生で体験してきた事全てを調べても、何の意味もなかった。肉体が死んで最終的に土に還るという事以外、何もないまま終るのだった。彼が所有していたもの、達成した事は全て意味がなく価値がないように感じた。「ほこりのようなものだな」彼は思った。


「灰は灰に、ごみはごみに還る…もし戦争があなたを掴まえなくても、税金があなたを掴まえる」


彼はこの馬鹿げた詩の中にある真実に笑わざるを得なかった。人生はあまりにも馬鹿げたものに思えたのだ。しかし、モルヒネの錠剤を飲む事を考えながら、まだ諦める事は出来ない事を理解していた。彼の脳裏に喚起する何かがあった…どこを探したらいいか分かれば答えがそこにあるかも知れないという捉えどころの無い思いがあった。彼には時間以外何もないと分かっていた。彼の体は半分死にかけているけど、まだ精神は機能していて、まだ考える事は出来ると思った。


「試してみるべきか?」と疑問を声に出してみた。


少しの間、彼はためらったが、肩をすくめて決断した。「ああ、何て事だ。何も失うものなんてないじゃないか。もし上手く行かなかったら、いつでもモルヒネを飲めるんだ」彼はもしそうなったら自分がモルヒネを飲むだろうと分かっていた。絶対そうするのだと思っていた。


心が決まったら、そのことについて再び考える必要がなくなった。彼の心は、長期間そうであったよりもクリアに感じた。そして病気になって以来初めて本当に空腹感を覚えた。彼は台所へ行き、自炊した。まだとても弱っていたので、ゆっくり時間をかけ、急ごうとはしなかった。食事をしている間、彼の心は答えをどこに求めるかというアイディア、新しい考え、問いなどを探求する事で忙しかった。この新しいプロジェクトはワクワクするもので、レスターも再び生き生きしてくる自分自身を感じた。


この食事によってリフレッシュし、強まったので、彼は窓際の椅子に再び座った。


「どこから始めるか?」彼は思いめぐらした。「そうだな。最初に知りたい事は何だろう?」


「人生とは何だろう?人生にはどんな意味があるんだろう?この世界に私が存在する理由はあるのか?もしあるとしたら、それは何だろう?」


「人生とは何だ?私が探してきたものとは何だったんだ?」


「ほんのちょっとした幸せ、それだけだ」彼は自分で答えた。


「分かった。それでは幸せとは何だ?どうやって手に入れる?どこで見つければいい?」


「生きるってどういう事だ?この世界にどんな意味があるんだろう?私と世界の関係とは何だろう?」


「どうして私はこんな有り様になってしまったんだろう?」


「この有り様から逃れる術はないのか?」彼は既にその答えを知っていた。死を選ぶより逃れる術はないと。しかし、もしその答えを見つける事が出来れば、少なくともこの世に生きた理由が分かると彼は思った。彼はその理由を理解するだろうし、そうなったらいいと。


まず最初に彼は幸せと人生の定義を辞書で調べた。辞書には彼が知っている事しか書いてなかった。次に彼は何年もかけて集めてきた本がある書斎に行った。フロイトの本があった。何か役に立ちそうなものがあるだろうか?いいや、彼はフロイト派の精神分析を何年も受けてきたが役に立たなかった。彼は英語に訳されたフロイトの著書を全て読んでいたが、その答えは見つからなかった。フロイトは彼の知りたい答えを持っていなかった。次にワトソンの行動主義、ユング、アドラーなどの本に向ったが、それらも彼にとっては無意味だった。


次に哲学者達の本があった。彼は書棚から本を取り、山積みにした。彼はそれを全て1度ならず隅から隅まで読んだが、彼は何かを見逃していたのだろう。結局のところ、彼は特別な質問を持っていなかったと思った。


彼は窓際の椅子のところに本を持って行き、読み始めた。次から次へと目を通し、あちこちのページや段落で目を留めた。


彼の頭の中は情報が詰まり始めたように感じ、思考はグルグル回っていた。どんどんイライラしてきて、彼は他の本、医学、物理学、工学などの本を探しに書棚に戻った。部屋の中は散乱し、本は至るところに積み重なり、ある本は彼がイライラして投げつけたまま床に広がったままになっていた。書棚に残された本は、贈り物として貰ったジョークに関するものと伝記ものだけだった。


次は何を見るのか?「お前はいつも優秀だったな」彼は自分自身に言った。「お前はラトガース大学のたった3人の全額給付の奨学生に試験で勝ち残ったのだったな?お前はユダヤ人にも関わらず、それを取り消されなかった。お前は勝ったんだ!」


「お前は学校ではいつも優等生名簿に載っていたよな?エンジニアリングから物理学、精神分析や哲学、医学と本当にたくさんの本を読んできたよな?」


「なあ、もしお前はそんなに頭が良いなら、大物なら、お前が勉強してきた事、知識、読書は何をした?偏頭痛、腎臓結石、胃潰瘍、虫垂炎、痛み、苦難、不幸、それで最後は心臓で死ぬはずだったが、そうはならなかった。お前が正気を取り戻す前にこれ以上何が必要なのか?」


「賢い少年レスターよ、お前はバカだ、バカだ、おおバカだ!お前に役立った知識は何もないじゃないか。それなのに、やはりまだ答えを見つけていない者達が書いた本を読もうとしている」


「その通りだ」彼は自分自身に言った。「こんなくだらない事は止めたぞ」


こう決心して、彼は今まで感じていた肩の重荷が軽くなるのを感じた。突然彼は軽さを感じて、目まいがするほどだった。彼は理解した。ずっと同じ答えを探し続けて生きてきた事を。。しかし今、間違いなく分かった事があった。もし伝統的な場所に答えが見つかっていたのだとしたら、彼は既に見つけていただろうと。彼はどこか他の場所を探さなければならなかった。彼にはどこに答えがあるか分かっていた。


彼は役に立たない知識は一時的に忘れ、彼が学んだ事全てを無視する事にし、研究室に戻って一からやり直す事にした。問題は自分自身の中にあると彼は推測した。問題は彼の肉体、心、感情にあり、その答えは彼自身の中にある筈だった。そして、彼自身が彼の研究所であり、そこが問題を探すべき場所だった。彼は椅子の所に向かい、答え探しを始めた。


答えが姿を現し始める


1ヶ月の間、彼は坐り、絶え間なく自分自身を深く探った。最初に、彼は医師の命令に従おうと毎日大半の時間をベッドの上で休んでいたが、それを続けていられなくなった。彼の精神はじっとしているには働きすぎており、この新しい探求は、今まで彼が生きてきた中で、もっともワクワクするものだったからである。彼は他のプロジェクトでそうしてきたように、試す事と経験を通して熱心に自分を探索した。彼は自分自身で一問一答を行なった。最初に質問をなげかけ、答えが正当であるか否か確証するまで、可能な限りの答えを探った。このやり方を通して、彼は最初の大発見をした。初めて本当の答えを見つけたのである。


彼が自己探索を始め、幸福という事への答えを探してから凡そ1ヶ月後の事であった。 彼は既にいくつかの答えを排除し、もう1度自分自身に問いかけた。「幸せとはなんだろう?」と。


今回浮かんだ答えは「幸せとはお前が愛されている時に感じるものだ」この答えは単純なものに思えた。


彼は続けた。「OK.今お前は幸せだと言えるかい?幸せだと感じているかい?」


答えは「ノー」であった。


「分かった、それでは、お前は愛されていないという事だな!」というのが結論だった。


「いや、そうとは限らないぜ」と反論した。「家族はお前を愛しているじゃないか」


ここで彼は問答を止め、考えた。彼は病院で本当に具合が悪かった時の家族の心配した顔を脳裏に思い浮かべ、どこかに長期滞在し帰宅した時の家族の目に浮かんだ喜びを思いだし、「調子はどう?兄さん」と電話で話した妹のドリスの声を聞いた。その通り、彼は愛されていたのだ。それは間違いなかった。


そして、彼を愛した女性もいた。もし彼は求婚したら、すぐに彼と結婚したであろう女性を1人以上彼は思いだす事が出来た。なぜかというと、その女性達が彼に求婚したからで、彼がそれを断った時、その女性達との関係が壊れていたのである。


友人として彼を愛した男性もいた。小さい頃からずっと知っている男性、あらゆる困難を通り抜ける間、常に支えてくれた親友達、定期的に近況を伺って電話をくれる人、共に過ごして楽しんでいる友人、皆彼を愛していた。


このような愛がありながら、彼は幸せではないという事はショックだった。愛されているという事は幸せという事の答えではないという事が明らかになり始めた。彼はその答えを廃棄し、新しいアプローチを試みた。


「きっと幸せとは何かを達成した中にあるんじゃないか」彼はそう考えた。ラトガース大学の奨学生試験に通った時、ケルビネーター社が給料を上げてくれた時、最初にアパートを所有した時、ヒッチング・ポストをオープンした時、カナディアン・ランバー社の掌握した時を思い出していた。確かに彼は自分自身にプライドを感じていた。しかし幸せだったか?いや、それは彼が幸せと呼ぶものではなかった。


「それじゃあ、オレは今まで幸せな時があったんだろうか?もしあったとしたら、それはいつだったのか?」


最初の質問は簡単だった。もちろん彼は幸せな時があった。しかし、具体的にはいつだったのか?


彼はその事について考え始めた。彼が何年も前に仲間とキャンプに行った夏の日。その時彼は幸せだった。もちろん、四六時中常にそう感じていた訳ではない。それでは具体的にどんな瞬間幸せだったのか?彼の心に突然浮かんだのは、ある夏に友人であるサイがテントを張っているのを手伝った時の映像だった。レスターは彼を手伝い、お互いに笑い、自分達の友情関係に満足し、お互いに気分が良かった。その時は幸せだった。彼は思い出し笑いをしていた。今になってもその時の事を思うと気分が良かった。


「その他に幸せだった時はあっただろうか?」彼は問いかけた。次に彼が思い出したのは、友人のミルトンが大学の時に駆け落ちした時に感じた事であった。それは誰も知らる筈のない事だった。しかしミルトンは一番の親友であるレスターにだけは打ち明けたのだった。彼はその時とても幸せだった。それはミルトンが彼にだけ秘密を打ち明けたので特別に感じたからだろうか?彼は内省し、そうではないと分かった。特別扱いされたからではない。それはミルトンの顔の表情、彼の新妻について、如何に彼女を愛しているか語っている様、それらは大学を終るまで待てないというものだった。レスターは瞬間的に羨望からくる心の痛みを感じたが、しかし彼の友人の顔が愛で輝いているのを見て、レスターはミルトンのために幸せを間違いなく感じていたと分かったのだ。彼は何年も経って、目を閉じ、その情景を思い出している今でさえ、幸せが湧き上がってくるのを感じた。彼はその時まさしく幸せだったのである。


彼が過去を回想し続けている間、幸せな時を思い出すのがどんどん速くなっていった。彼はジュンの事を思い出し、車でデートに誘い、愛情で胸が躍りだし、彼女に会うのが待ちきれなかった事を思い出した。その時、彼は幸せだったのである。


それからネッティがいた。ああ、何て事だろう。彼は本当に彼女の事を長い間思い出さなかった。今でも本当は彼女について考えたくなかった。彼女にはあまりにも多くの心の痛みが伴っていた。しかし、彼女の事を思い出したのであった。彼は生涯その痛みから逃げ続けていたように思えた。そして彼は走り続ける事に疲れたのだった。我慢できる限界にきて、彼はもうこれ以上走る事が出来なくなったのであった。そこで、彼は無理をして見つめ、自分に問いかけた。


そうだ、彼はネッティと一緒にいて幸せだった。彼女との記憶が頭に浮かんだ。彼女をあまりにも愛しく思い、彼女の腕を掴んで抱き寄せようとした時の事、パーティーで彼女に思いがけなく出会い、一目ぼれした時の事。彼女の笑顔を思い出し、陽の光りで輝いている彼女の髪、一緒に勉強をしている時の彼女の真剣な表情、淡い花のような彼女の香り、彼女の笑い声、「愛してるわ、レスター」と夜に囁いた彼女の柔らかい声、そういう記憶が浮かんだ。


彼は椅子に深く腰をかけたまま、映像が流れ込み、彼の心をよぎるのに任せた。長く持ち続けた痛みも流れるままにさせた。彼の胸は、注意深く立ち上げ築いたダムを崩壊し、初めて失った恋人ネッティを思い嘆きの涙を流すまで痛んだ。哀しみは底なしの痛みと孤独感から立ち昇ってくるように思えた。何時間もそれは続くと思われたが、終った時、体力が尽き果て、弱ったように感じた。彼は可能な時に椅子からベッドまで這って行って、死人のように眠った。


何が起こったか?


朝、レスターはすっかり休息し、リフレッシュした気分で、とても早い時間に目が覚めた。目が覚めてから最初に思ったのは「ああ、あの時何が起こったんだろう?」という事だった。彼は自分の粘り強さに苦笑しながらベッドから出て、シャワーを浴びにいった。朝食の用意をしている間、彼の思考は頭の中を占めている問いの答えを探索し続けていた。


「さて、あの時に何が起こったんだろう?あの時に共通していた特徴は何だろう?サイ、ミルトン、それからジュン、ネッティ…何が共通していたんだろう?どことなく愛情が関わっていると分かっていたが、彼は最初どういう形で共通しているかが見えなかった。最終的に答えが分かった時、その答えがあまりに単純で純粋で、完璧な答えだったので、なぜ今まで分からなかったのだろうと彼は思った。


「幸せとは私が誰かを愛している時に感じていたのだ!」各々の状況において、彼が他人に対して愛情を強く感じていた時、その時こそ、その彼自身が愛を感じている事から幸せがもたらされていたのだと理解した。


今や、誰かから愛される事が答えではないという事が彼には明確だった。たとえ人が彼を愛したとしても、彼が愛を感じていないなら、彼は幸せにはならないだろうという事が分かるようになっていた。彼らや彼女らの愛情は彼ら自身を幸せにするかもしれないが、レスターを幸せにはしないし、幸せに出来るものではなかったのだ。これは新しく驚くような概念だったし、彼は直感的に正しいと分かっていたとはいえ、昔からの科学的思考のトレーニングの習慣は、この概念をテストする事なしに受け入れる事が出来なかった。そこで、彼は過去を眺めた。彼が愛されていて幸せだった時の事を思い出し、幸福は他の人間が彼を愛している必要はないと理解した。


彼は逆の面、つまり不幸せだった時の事も考察した。今、彼は何をみるべきか知ってい た。その時、彼が愛していなかった事は明白だった。彼は、その当時ネッティとジュンと同じように彼女達を愛していると思っていたのだった。彼は彼女達を愛し、必要とし、望んでいたのだった。彼は今考えていた。それは愛だったのかと・・。違う、なぜなら苦しんでいたのだから。彼は彼女達が愛してくれなかった時の心の痛みを経験していた。たとえ彼がそれを愛と呼んでいたとしても、実は彼女達を完璧に所有したいと望んでいて、幸せになるためには彼女達の全ての愛が必要だと思っていただけだった。


これこそが解決への手がかりだった。彼はずっと「(愛を)望んでいる状態」又は、愛の欠如を経験していたのだった。誰か他の人が愛を運んでくれる事を期待しながら、彼を幸せにしてくれる人を待ち続けながら…。これが、あまりにも馬鹿馬鹿しい事に思えて、彼は笑わずにはいられなかった。誰か他の人が彼を幸せにする事が出来ると思っていた事はこの世で最もおかしな事のように思えた。誰も彼をどうこうさせるなんて事は出来ないというのは、自分が誰よりも知っていたのである。彼はいつもプライドを持ち、頑固で、自分の事は自分でしてきて、他人や何かを必要とした事がないのは十分分かっていたのだ。「冗談もいい加減にしてもらいたいよ!」と彼は思った。真実は、彼はいつも愛を欲しがっていて、それを他人からもらわなければならないと思っていたのだった。笑いながら涙が頬を伝っていた。これまで生まれてこのかた、ずっと探してきたものは自分自身の内側にあった事に気づき、彼は笑わざるをえなかった。頭に乗せている事に気づかずに、あちこち眼鏡を探し回っているうっかり博士のように彼は生きてきたのだった。


「ひどい話だ」と彼は思いつつ涙を拭いた。「今までこんな事が分からなかったなんて…。今までの時間を、何年もの時間を無駄にしてきたなんて…何たる事だ」


「でも、待てよ。もし幸せというものが、オレが他の人へ愛を感じている時なのだとしたら、幸せというのはオレの内側に存在する感覚という事なのか・・」


「そして、もし過去に愛を感じていなかったとしたら、まあ、過去は変えられない事は分かっているが、オレ自身のその時の感覚を今変える事は出来ないものだろうか?愛の 感覚を今変えられるかな?」彼は試してみる事にした。もっとも最近の不幸せだった事 について考えた。それは病院を退院した日だった。


「まず、あの日、オレは愛の欠如を経験したか?」彼は自問した。


「そうだ」彼は声を出して答えた。「誰一人としてオレの事を気にしちゃいなかった。看護師も、事務員も、シュルツ先生でさえもだ。あいつらはお構いなしだった。オレが具合が悪いのに、やつらは私を放り出し、死ぬために家に帰したのだ。やつらは自分達の失敗を見ないで済むからな…冗談じゃない。やつらは皆地獄行きだ」 彼は自分の激しい声にショックを受けた。彼の体は怒りで震え、体が弱々しく感じた。彼は本当に医師を憎んでいた。その憎しみが胸の中で焼けるように感じられた。彼は思った。「何てことだ、確かにこれじゃ愛ではないな」


「さあ、これを変えられるかな?」彼は自問した。「先生に対して、この憎しみを愛に変えられるかな?」


「いいや、無理だ」彼は思った。「何で愛に変えなければならないんだ?先生は愛を受 けるに値するような事を何かしたか?」


「それは問題じゃない」彼は自分でそれに答えた。「問題は彼が愛を受けるに値するか どうかじゃあない。問題はお前が愛に変えられるかだ。ただ嫌悪の感覚を愛の感覚に変える事が可能か?それも他人の恩恵のためにではなく、お前自身のために」


そんな考えが頭をかすめると、彼は何かが胸から解き放たれたのを感じた。穏やかに緩む、溶けるような感覚で、焼けるような感覚は無くなっていた。最初、彼はそれを信じられなかった。あまりにも簡単なように思えたので、もう1度シュルツ医師との病院でのやり取りを頭に描いてみた。驚いた事に、前に感じた強烈な焼けるような憎しみよりも、軽い憤りが生じただけだった。彼は同じ事がもう1度出来るか考えた。


「ええと、今どうやったんだっけ?…ああ、そうだ。怒りの感覚を愛の感覚に変えられるかな?」胸の中で怒りが解けるのを感じながら、彼は一人静かに笑った。それで怒りは完全になくなり、彼は幸せだった。もう1度シュルツ医師の事を考え、彼の姿を頭に描いたが、幸せに感じていた。愛情さえ感じていた。最後に会った時の事再体験しながら、シュルツ医師が彼に言わなければならなかった事を言うのを嫌がっていたのが、今の彼には分かった。働き盛りの若い男性に余命いくばくもない事を告げなければならなかったその医師の苦悩を彼は感じる事が出来たのである。「シュルツ先生、全くあなたという人は・・・」彼はニコッとしながらこう言った。「愛していますよ」


「さて、これで1つ終った」彼は考えた。「もし私の理論が正しければ、全ての事に効果がある筈だ」彼ははやる思いで他の時について試みた。その結果は一定して同じものだった。もし反抗心や怒り、嫌悪の感覚を愛に変えられるかどうか自問する度に、何かが解けるプロセスが生じた。


その人物に対して愛だけを感じるようになるまで何度も何度も繰り返さなければならない場合もあった。ある時は、全てのプロセスが1,2分しかかからなかった事もあれば、ある特定の人物や出来事に彼の感覚が愛以外になくなるまで何時間もかかる事もあった。しかし、彼は根気強くそれぞれの人や出来事に対して完全に終るまで留まり続けた。


彼の人生全体が少しずつ切れ切れに見直された。1つずつ、彼は古い心の痛みや 失望した事全てを愛に変えた。心の痛みが少しずつ減っていくと、彼は自分が丈夫になていく感じがし始めていた。今まで生きてきた中で一番幸せに感じていた。そして、それぞれ新しく事が修正されるとより一層幸福感が増すのを感じながら、そのプロセスを続けていった。


彼はベッドに向うのを止めていた。なぜなら、あまりにもエネルギーが満ち溢れていたので横になどなっていられなかったのである。疲れたと思ったら、椅子でウトウトし、1時間かそこら後に目覚め、プロセスを再開するのであった。あまりにも彼の人生には正されるべき事が多かったので、ありとあらゆる所を見るまでこのプロセスを止めたくなかったのである。


どの程度まで幸せでいられるのか


もう1つ彼が興味をそそられたのは、どの程度までこの状態を持ち続けられるかという事だった。各々の出来事を正した後、彼は幸せになり、それを感じる事が出来た。しかし、どれ位までいけるのか考えたのである。幸せに限度はあるのか?ここまで彼は何も制限は感じなかったので、その可能性は驚異的なものだったのである。そこで彼は24時間、絶え間なくプロセスを続ける事にした。


彼の体力は回復していたが、心を動揺させたくなかったので、社会活動に関わる事を避け、日曜日の家族の集いも辞退する時もあった。食料品も深夜2時か3時辺りに買うようにしたのである。その時間帯は人も少なく、彼は街の静けさを楽しんだ。人生の修正を続け、必要な手続きをとっている間も修正を行なっていた。そして店の中にいる人や街にいる人が彼をイライラさせたり、ムッとさせた時、即座に、又はその後短い時間に 愛情でその反応を修正する事が出来る事に気づいた。これには喜んだ。そして自分で可能だろうと思っていたよりも遥かに強力に他人を愛している自分に気づいたのだった。この事を何年も後に彼はこう語っている。


『私が人と付き合うなかで、相手が何度も何度も私が嫌いな事を行ない、“愛のない(Non-Love)”感覚が私の中に存在したら、例え相手が私に反感を持っていたとしても、すぐに私はその相手を愛するように態度を変えました。最終的にどれだけ反感をもたれていたとしても、彼らに愛情を感じている状態を維持出来るようになりました』


彼は約1ヶ月間、人生の修正を続け、一定の成果を挙げてきたが、ある日、途方に暮れてしまった。彼は最後にネッティと会った時の事、ネッティがレスター以外の男性を選 んだ日の事にワークしていた。彼女に対して多くの心の痛みを既に修正してきたが、彼 女はレスターの心に何度も何度も現れ、それは安楽な事ではなかった。実際に昔の人間関係にワークするのは最初はとても難しかったが、次第に彼の強さが回復してくると、長い間埋もれていた感情に向き合い、それを修正する事が出来るようになっていた。


しかし、その日は特別だった。どんなに愛で修正しようとしても、解消できない絶望感があり続けたのである。彼はそれから逃れたかった。椅子から立ち上がり、何かを食べたり、この強烈な感情から逃れさせてくれる何かをしに、どこかへ走っていきたかった。しかし、そうする代わりに彼は、その感情を扱えるようになるまでそのままでいる事に決めたのであった。何かが彼に語りかけた。もし彼がそのまま感情に振り回され続けるなら、その戦いに敗れたなら、彼は完全に敗北するだろうと。彼は椅子に座ったまま、これを乗り切る事を決意した。


彼は心の内を探った。「どうしたんだろう?どうしてこの感情が解けないんだろう?ネッティ、ああ、ネッティ」 彼は泣き始めた。涙が頬を伝い、2人が別れたその日、封じ込めた心の痛み全てが洪水のように押し寄せていた。「なぜ他の男を選んだんだ、ネッティ?」彼は泣き叫んだ。「なぜオレから去っていったんだ。オレ達はあんなに幸せでいられたのだから、結婚しても幸せでいられただろう」


「くそっ!」彼は思った。「どうして人はこんな事をするんだろう?自分の幸せどころか他人の幸せも棒に振ってしまうなんて。そんな事をする権利はないんだ。そんな事が許されていい筈がない。何か彼らを変える方法がある筈だ。彼らが行なう事を変える方法が、彼らが他人に対して与える影響を変える方法が…」


彼は胃潰瘍が再び痛み出したのを感じた。そしてネッティに振られた、まさにその日に 潰瘍が始まった事を理解していた。彼はあの日ビールを飲み、吐いた。それが潰瘍の始まりだったのだ。彼はそうでなかったらと思った。この世のどんな事よりも、彼はあの日あった事を変えたかった。彼はあの日に戻り、ネッティが彼を選び、結婚し、その後ずっと幸せに暮らすという形でやり直したかった。


「なあ、変える事など出来ないんだよ、間抜け」彼は自分自身に叫んだ。「だから、そんな事は止めといた方がいいぞ」彼は驚いた。20年以上も前に終った事を、自分はまだ変えようとしていた事が見えたのである。


「いや、まだ終っちゃいない」彼は泣いた。「終らせないぞ」今や彼の喉は痛み、叫んで、ものを壊したくなるような感じがしていた。


その時、インスタント再生のように、彼は自分が言った事を聞いた。「終らせないぞ」。それこそが彼の苦悶の源だったのだ。彼は何年もの間、それを変えたいと思い、彼の内部で生かし続け、その痛みは深く埋められ、彼の幸せを蝕んでいたのである。


「ああ、勝手にしやがれ」彼はほとんど皮肉でこういった。突然、その決心によって、全てが無くなった。彼は信じられなかった。心の痛み、苦痛、絶望感を感じていたのが、それらが全て失せてしまったのだから。彼はネッティを思い出したように考えた。若く美しい彼女を。彼はただ彼女を愛していた。そこには昔の痛みのある感覚は全く残されていなかった。


彼は、この新たな方向性を検討し始めた。胃潰瘍の原因は、あらゆる事、それは最も身近な事から世界の果てまで、合衆国やその他の国、政府の長、天候、今まで見た映画の結末、ビジネスの経営方法、税金、軍隊、大統領、そういった事を変えたいと望んでいたからだと彼は理解した。彼が何かにつけ変えたいと望んでいないものは、無いに等しかったのである。


何という啓示だろう!彼は自分自身を、彼が変えたいと思う事全ての犠牲者であり、被害者として見ていた。それら全てが解け始めた。彼が人や出来事に関して痛みの原因になる何かを思うと、今やそれを愛に修正するか、それを変えたいという願望を溶解させるのだった。



この自分に、ありのままのみんなに、今日をありがとう。
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